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測量は、折衝力。
土地家屋調査士/内藤寛之
社会の仕組みが複雑化していく現代においても、説明不要なほど分かりやすい職業はまだまだ残っている。建築の世界を例にとると、「大工」は直球系のわかりやすさだ。測量も同じように、イメージを掴みやすい類いの職業のひとつではないだろうか? と思っていたのだが。。。
土地家屋調査士は、合格率7~ 8%の超難関の国家資格。
弁護士になるための司法試験の合格率が概ね20%以上あるなかで、合格率7~ 8%の土地家屋調査士がいかに難しい資格なのかを分かっていただけると思う。文系士業の難関と言われる会計士の10%弱と比べても、土地家屋調査士はある種の最難関であり、時代に左右されることのない人気志望職種でもある。「祖父も父も土地家屋調査士の業務をやっていましたし、私も兄も自然に土地家屋調査士になっていました。」内藤さんは測量の家系なのだ。誰しもが経験するであろう資格取得までの厳しい道のりとは比較的に無縁で、地力が育まれる環境に恵まれていたのだと思われる。しかし、日々の仕事には苦労もあるという。仕事観についてお話を伺ってみた。
簡単だと思われがちな仕事内容
測量の業務は2つに大別され、内藤さんは土地家屋調査士として、おもに民間住宅などの宅地の案件に従事されている。手短に言えば、「測って」「図面を起こして」「登記する」仕事だ。簡単だと思われがちな仕事だが、実際には理解されにくい苦労があるそうだ。
例えば、調査対象地域の高低差があったり、入り組んだイビツな形状のために緻密な測量技術を要する場合がある。また、銀座などの都心の密集地では、ビルの隙間に人が侵入できずに計測困難な状況に出くわすこともある。近代では、GPS 測量機器も登場しているものの、土地家屋調査士の世界では手間を掛けたアナログ測量でなければ対応できないという。調査対象地には、少なくともと4~5回は足を運ぶ必要がある。道路などの公共用地の境界線の確認作業には、行政の立会が必要になる。同様に、隣接者同士の土地の境界線確定も、両者立会のもとで行う必要がある。さらに、登記図面と一致しない土地に遭遇することもあり、時間を要すこともある。測量は、予想以上に工程数の多い労働集約性の高い業務なのである。そのことは、見積提示時に高額と思われたものの、終わってみれば「安いですね」というお客様の声にも現れている。
「測って」「図面を起こして」「登記する」のは大切な職能であるものの、これはあくまでも基本スキルなのだそうだ。
本当に必要な測量士(土地家屋調査士)の能力は、もっと高度な領域のなかにある。
測量は、折衝力。
土地家屋調査士の世界では、土地の所有を巡って隣接者同士が境界線を争うことがあるそうだ。ご近所付き合いをしっかりされているお客様であれば、おおむね問題は起きない。逆に、付き合いがなければ、難航してしまう確率はあがる。
そこで、土地家屋調査士の折衝力がモノを言うそうだ。「この人が言うのなら」と速やかに決着させてしまう説得力こそが仕事の真髄であり、国家資格のもたらす「格」でもある。「第一印象で決する説得力」こそ、とても重要なのだそうだ。さもなくば、法務局に境界線の決定を委ねる(筆界特定制度)ことになり、決着するまでに数年を要すことになる。この最悪の事態を避けるためにも、折衝力こそが大切だという。
聞き手(CCS 広報室)の心象から補足させていただくと、チーム・コモリに登場される方々すべてに共通する「サムシング」を、内藤さんもやはり持たれていた。あえて言葉にするなら「胆力」といって良いかも知れない。
人間力で挑む、特殊士業。
AI(人工知能)の台頭とともに、多くの士業は淘汰されることがほぼ確実となっている。弁護士は法定で弁論するといったフィジカルな業務以外は、AIに代替される時代が目前に迫っている。行政書士や会計士などもAI でなかば自動化され、職業としての成立すら危惧されている。一方で、土地家屋調査士の能力は、フィジカルな側面と折衝力という人間性に起因するため、AI には代替することはないと思われる。不動産の「開発」と「売却」の両方で仕事が動く測量の世界は、建設関連業種のなかでも高い安定性があり、志望人気とともに残っていく仕事であると思われる。
「ずっと働き続けるとやはり疲労します。土日に働くことも多いですし。計画的に休暇をとってリフレッシュしています。」サッカーで体力を培った内藤さんは、清潔感のある笑顔が印象的だ。そこには、謙虚さと自信の両方があった。極めてプロフェッショナル性の高い仕事だ。なぜならば、夏は暑く冬は寒い屋外で長時間作業できる「身体性」と、難関の国家資格の「知性」と、折衝力という「人間性」。この相反する要素をすべてあわせ持たなければならないからだ。