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クライアント・ファーストの匠

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解体業は、分解業。
建物解体業/岩下あきひろ

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岩下さんは、20代半ばで父親が経営していた家具問屋を引き継ぐことになったが、その後、家屋解体というまるで別業種の業態に転身した少し異色の経歴の経営者だ。しかし、業態は変わろうとも、その根っこにあるのは真摯な仕事への姿勢だった。解体業という一見荒っぽいように思える仕事でも、じつは細やかな気遣いで成り立っていることを丁寧にお話しくださった。

解体で最も手間をかけるのは、仕分け作業。

私の会社で手がける家屋解体の多くは、木造の一戸建てです。作業にはだいたい5日間ほどかけます。1日目は、半日で足場を組み立て、防塵シートをかけます。そして屋根の瓦をひとつずつ手作業で取り除いていきます。2日目からは重機を使います。先端のアタッチメントにハサミ型のタイプを付けて2階の壁を壊していきます。建物の造りによっても変わりますが、最後に要所要所の柱を残し、自重で内側に倒れてくるようにします。常に埃が立ちますので、水撒きをしながらの作業になります。また、現場は常にきれいにしています。夕方に最後に掃除すればよいということではなく、気がついたら常にきれいにするんですね。工程の最後は、コンクリートの基礎を重機で撤去します。最後の半日はパワーシャベルで整地作業を行い、熊手で人が土を均して完了します。

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家をただ単に破壊するだけならば1日でもできるのですが、じつは一番手間をかけているのは、解体の際に発生する建物の部材(ガラ)の仕分けなのです。壁材(石膏ボード・モルタル)、窓サッシ、金物、構造材(木材)、タイル、トイレ、ユニットバス、基礎のコンクリートなど、一軒家からはたくさんの種類のガラが出ます。これらは産業廃棄物に当たりますので、材質別に手作業で仕分けをしてから運搬処理をする必要があります。

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解体の際には役所に申請を出しますので、抜き打ちで現場にチェックに入ることがあります。産業廃棄物を適正に処分しているかということを見に来るのですね。うちの場合はもちろんきちんとやっていますので、担当者の方も見に来てもサッと帰っていく感じです。

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最も大事な工程は、ご近隣へのご挨拶。

一般の方が「解体」と聞くと、力任せで家を破壊するような、あるいは浅間山荘事件の映像に出てきた巨大な鉄球などで破壊するようなイメージを持たれるかもしれませんが、じつはかなり繊細な作業なのです。家の解体は、建設をするときの「真逆」の手順を踏みます。建てるときは、基礎を打ち、柱を立てて、壁を作って、屋根を載せますよね。解体はその逆に、屋根を外して、壁を壊して、柱を取って、基礎を剥がします。真逆の手順でやっていけば余計な労力もかからないわけです。緻密に「ほどいていく」という感じでしょうか。「解体」というより「分解」に近いとも言えます。この作業に慣れてくると、じつはほとんど力も使わないんですね。

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私たちの仕事で最も大切なのは、建物を壊す作業自体ではなく、ご近隣への配慮です。「苦情が来ないか」ではなく「苦情が来ないようにする」ためにできるかぎりのことをします。まずは、工事に入る前にご挨拶まわりをしっかりして、工事内容をご説明してご理解をいただくようにします。当たり前のことに思われるかもしれませんが、このときの対応が決定的に印象を分けます。「絶対にご迷惑をおかけいたしません」と言うと嘘になりますから、ご迷惑はどうしてもおかけしてしまうわけで、「それでも最大限の配慮をします」という姿勢をきちんと示すことでご理解をいただいておくと、苦情にはなりづらいです。私が現場の人間にいつも口酸っぱく言うのが「自分が隣に住んでいたらどう思うか?」ということです。隣の住人の気持ちで作業をやらせていただけば、おかしなことにはまずなりません。だから、うちの会社はクレームはかなり少ないほうです。

解体は「終わり」ではなく、工事の「始まり」。

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この仕事で一番やりがいを感じるのは、すべてを壊して更地になったとき、お客さんに感謝されるということですね。これは解体屋だけだと思うんです。普通は家を壊したら怒られるじゃないですか(笑)。うちは不動産屋さんのお客さんが多いので、家を解体したあとには売ったり建てたりすることが多いんですね。つまり、解体は終わりではなく始まりなのです。工事の「トップバッター」と言えます。そのとき、更地がぐちゃぐちゃだったり、石がごろごろしていると、買う方もテンションが上がらないと言いますか、イメージが湧かないと思います。畑みたいに綺麗な敷地になっているほうが購買意欲も湧くのではないかと。そこは気をつけていますね。また、建て替えであれば、そこに人が住むわけですから、「お宅を壊したとき、ひどかったよ」と言われたら住みづらいですし、その後の工事もしづらいですよね。そういうところを見ていただいているから、リピートしてお声がけいただくお客さんが多いのではないかと思います。

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解体屋の職人はたしかに荒っぽいタイプが多いものですが、本当に仕事ができる人間は、ちゃんとした常識があって真面目な姿勢で取り組むタイプです。うちは日雇いではなく、全員正社員で雇用していますので、最初の社員教育には力を入れます。また、解体業は「チームワーク」ですので、周りと協調性がある人のほうが仕事に向いています。一匹狼のようなタイプもたまに来るのですが、全然仕事ができないですね。「みんなでこうすれば効率的に早く済むのに勝手なことをしてしまう」というのでは、やはり使い物にならないのです。未経験者は仕事ができないのは当たり前ですけど、できないなりにやろうとしているかというところが大事ですよね。

重機の操縦は、センス。

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解体のチームは、4人体制が基本です。重機オペレーター1人(責任者)と、手元作業員3人(運搬係)。現場監督にあたるのは重機オペレーターです。現場は、重機オペレーターの腕が大きく質を分けます。ガラを運びやすいようにあらかじめうまく砕く腕があるオペレーターだと、作業は当然スムーズに進みます。壊し方を下手にやるとゴミが多く出るだけですからね。重機のオペレーションには、向き不向きがあります。センスが必要なのですね。両手両足を使った細やかな動きが必要ですから、車の運転というより「ガンダム」の操縦に近いと思います(笑)。あるいは、ドラムを演奏するような感覚ですかね。繊細な感覚が必要とされます。ユンボの資格を持っているからと言ってすぐ現場に出せるわけではないのです。うちで今、一番キャリアの長い重機オペレーターは16歳から35年やっていますけど、「まだ勉強することがある」と言っています。「俺はまだ進化してる」って言っていましたね。私もそれを聞いたときはびっくりしましたが、結局、仕事はそういう「向上心」で決まりますよね。もうすでに無敵に近いくらいの技術者が、日々そうして機械作業を極めていくわけですからね。

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家具問屋から解体業への転身。

私の父は、家具の問屋を経営していました。しかし、だんだんと在庫を抱えて事業するのも難しい時代になってきました。私は不動産業界でサラリーマンをしていたのですが、20代半ばのとき、父が亡くなりまして。帳簿を見たら、「これはダメだ。続かんよ」という感じだったんです。父親が亡くなるわ、会社が潰れるわではおふくろがかわいそうだなと思って、とりあえず持たせようと私が会社を継ぐことになりました。

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当時、不動産の仕事では外環道路の立ち退きの交渉を担当していました。立ち退いた後には建物を解体することになるのですが、当時の解体屋は考えられないような品質だったんです。隣の塀を壊したとか、壁に穴を開けたとか、窓ガラスを割ったとか、おじいちゃんが大事にしていた盆栽を潰したとか。そのたびに「よくこんなので会社が成り立っているな」と不満に思っていましたし、「これは自分がちゃんとやれば商売になるんじゃないか」と思ったこともありました。 それが、解体業に目をつけた最初のきっかけでした。家具の問屋を辞めて解体の仕事を請け負うほうがよいのではないかと。それから、苦労して人を集めて、多少でも良くなりそうな人を見つけて教育して、真面目に仕事に取り組むということの繰り返しで、今に至りますね。そういえば、私は全然覚えていないのですが、小学校の文集に「大きい家を一人で壊したい」と書いていたと同級生に言われて驚いたことがあります(笑)。思い出してみれば小学校のころからよく物を壊していましたので、隠れた素質があったのかもしれません(笑)。

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解体業者は、私たちの生活になじみのある会社とは言いがたいため、各社の価格や品質を見極めることは難しく感じられる。岩下さんはまず「自分の会社で作業員を抱えずに下請けに流すだけの中間業者か、自分の会社で社員を雇って施工を行うか、というところをチェックされるとよいと思います」と助言をくれた。自社で作業しない中間業者の見積もりは、たしかに手数料を上乗せする分だけ高くなる。他にも「ご近隣の方への心くばりができるかというところも、やはり「品質」の大きな違いと言っていいでしょう」と。たしかに、そのような配慮ができていない業者では、社員教育や仕事の質を高く望むことは難しいに違いない。

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